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The means justifies the ends

読んでみた [新聞メディアのこれからを収益化する5つの方法]

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Mashable に "5 Ways to Monetize the Future of News Media" という記事が載っていました。訳すと「新聞メディアのこれからを収益化する5つの方法」。オンラインメディアに携った者としては見逃せません。
内容は、アメリカの伝統的な新聞メディアが、オンラインでの収益化をどのように行っているかを分類したものでした。
ざっと読んでみて、要点だけ日本語に訳してメモにしましたので、ご覧ください。 まず、共通認識として、アメリカの新聞社の事業はなかなか悲惨。日本でも日経や朝日まで赤字なんて騒いでますが、そんなもんじゃない。新聞社がばたばたとなくなったり吸収されたりしています。
さらに、コスト削減の結果、海外支局はもちろん、ワシントンD.C. の支社も閉じて、「大きなニュース」はアウトソースする方向が進んでいます。

原因はもちろん読者がニュース専門テレビ局やインターネットにニュースを求めるようになって新聞へのアテンションがへったこと。そして、その流れに乗るべく新聞各社はオンラインへのシフトを早くから始めていたのに、現在の無料コンテンツモデルでは新聞社を維持するのに十分な収益が得られていないこと。

この状況を鑑み、これから新聞はどっちの方向に進もうとしているかを、実例に沿って分類すると、以下の通り。

1. 完全課金の壁を作る

ロングアイランドにある地方紙 Newsday がこのケース。
トップページ、三行広告(Classified Ad: アメリカの地方紙の重要な収入源)、天気、訃報、株価といったごく一部の記事を除いて、ほとんどすべての記事を有料でないと読めないようにしたそうです。
料金は1週間5ドル、年間260ドル。かなり高い。ちなみに、後で出てくる Wall Street Journal は年間149ドル。
400万ドル(3億6000万円)のサイト改修費用をかけて課金システムに切り替えた結果、最初の3か月で獲得できた有料会員はなんとたったの35人!そして、当たり前だけどトラフィック激減で、広告収入も同様に減収。
Newsday の親会社は Cablevision というケーブルTV会社で、その会員は有料コンテンツが読めるようになっているので、親会社の顧客サービス充実のためのコストとして割り切ることはできるけれど、長い間コンテンツは無料だと思ってきたインターネットユーザーが課金の壁を越えてくれない、少なくとも Newsday の価格レンジの壁は越えてくれないことの証明ですね。

2. 半透過な課金の壁を作る

Newsday は「一部を無料にしてお客を呼び込み、その一部の人からお代を頂戴せよ」というフリーミアムの尊い教えに沿っていなかったわけですが、教えに忠実に実行したのは Wall Street Journal。今のところ、米国の新聞の中でオンライン有料購読者数最大で、購読者数の増加も好調。
それでも、今のところ、Google 経由では無料で記事を提供しているので、わざわざ購読料を払おうと思わない人も多いのが問題。なので、オーナーのマードックは Google からのアクセスを遮断するという脅しをかけているのはご存じの通り。
また、有料でないと全記事にアクセスできないようになって以降、外のサイトが WSJ の記事へのリンクをしない傾向が明らかになっているそうで、最近の調査によると、WSJ の購読者は New York Times の倍いるのにもかかわらず、ブログや Twitter などからの被リンクでは他のニュースサイトから大きく引き離されているらしい。つまり、フリーミアムのフリーの部分の読者=有料で購読してくるかもしれない見込み客と、ページビューベースの広告の収益を減らす方向に働いているわけです。
日本では日経新聞がこれに近いアプローチで、さらに外からのリンクをわざわざ禁止するという、フリーミアム的には自殺行為に見える規制までつけているのが興味深いところ。

3. 従量課金する

New York Times が来年1月から始めるといっているのがこれ。英 Financial Times の仕組みにならって、読者が1日のうちに読める無料記事の数を規制するもの。一定量(FT では1日5記事まで)以上の記事を開こうとすると「ここから先は有料会員だけ」となる模様。
これがどの程度うまくいくかはまだわかりませんが、従量課金開始後はブログやソーシャルメディアからリンクされる数が多いニュースサイトの上位から転落することはほぼ間違いなさそう。

4. 無料を貫く

WSJ や NYT のような巨人が自ら課金の壁の中に落ち込んでいくのをよそ目に、それであぶれるアテンションとトラフィックをごっそりいただくべく、無料を貫くというサイトも多数。
この場合、もっとたくさんのページビューを、もっと安価で生成するという戦略を取らざるを得ないので、調達コストの低いコンテンツを大量に揃えるのがベスト。
実は上記の NYT も一度はこの戦略をとっていて、2005年に About.com を買収したりブログを強化したりしています。ブログメディアのコンテンツ調達コストは、老舗新聞社の重厚長大な編集プロセスを経た記事とは比べものにならないぐらい低く、コンテンツ公開までの時間も短いので収益が改善します。
日本では朝日新聞がCNETを買収しましたが、よく似ていますね。

5. 広告主にとってより多くの価値を創造する

5つめの手法は急に抽象的で一般論っぽいのですが、広告を表示できるページを増やす方向ではなく、オンライン広告の単価を上げる方向に創造的なアイデアを出す、というもの。記事では、The Palm Beach Post の例が挙げられています。
The Palm Beach Post の地元広告主もご他聞に漏れず「旧式の、フツーの広告パッケージ商品の提案」に興味を示してくれなくなっていたのですが、じつはよく調べてみると、地元の顧客が欲していたのはディスプレイ広告パッケージではなくて、広告をよりよくしてくれるパートナーからのアドバイスだったというお話。
そこで、地元広告主向けにオンライン広告の使い方についてのブログを書いたり無料セミナーを開催したりし始めたとのこと。セミナーの内容はオンライン広告やソーシャルメディア入門から Google で自分の会社をどうやって目立たせるかなどなど。しかも、セミナーの中では palmbeachpost.com の広告枠の売り込みなどは一切なし。
つまり、媒体社だった地方紙が、地元広告主に対して広告代理店的な振る舞いに切り替えたわけです。全国紙などにはスケールしづらいですが、有効なアプローチである、と。

結論

そして記事ではこう締めくくっています。
News organizations should continue to cut costs where possible and seek out new, creative streams of revenue to leverage what has always been their greatest assets: the quality of their content and readership.

新聞社は、引き続きできる限りのコストを削減し続けつつ、一方で、新聞社にとって常に重要な資源であるコンテンツの品質と読者を活用し、新しくて創造的な収入源を探し続けなければならない。

おあとがよろしいようで。

コメント

ootaharaさんのコメント:

新聞紙は消えゆく運命なのでしょうか。
2010/5/27 10:44

樋口 理さんのコメント:

> 新聞紙は消えゆく運命なのでしょうか。

さあ。どうでしょう。
今のビジネスモデルでは事業が継続できないことは明らかになってますけどね。
2010/5/27 11:40

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