The means justifies the ends
高周波クラスタのみなさま限定記事です。
先日組み立てた中国製 RTL SDR、記事にもあるとおり、中波〜短波帯をまともに受信するにはダイレクトサンプリング用入力の前にプリセレクタを付けるか、低い周波数の電波を RTL SDR 本来の受信周波数である高い周波数に変換するアップコンバーターを併用しないといけません。
で、アップコンバーターを作ってみました。
せっかくなので、昔取った杵柄、DBM(Double Balanced Mixer=ダブル・バランスド・ミキサー)から自作します。
アップコンバーター。昔風に言うとクリコン。クリスタルコンバーター。受信したい電波に混ぜる局部発振器 (Local Oscillator) に水晶=クリスタルの発振器を使うので、こう呼んでました。もっとも、昔は、安定して受信する回路を作るのが難しいVHFやUHFの高い周波数を短波帯に変換して受信するダウンコンバーターのことだったけど、今回のは逆にHFをVHFに上げるアップコンバーター。でも、原理はまったく同じ。
クリスタルの発振器は、昔と違ってCPUのクロックなんかに使う高い周波数の水晶発振器が安く手に入るので、それを使います。
手に入りやすい50MHzぐらいの発振器だと、受信したい0〜30MHzが50〜80MHzに変換されるけれど、変換先の80MHzあたりには強いFM放送局の電波があって邪魔になりそうだし、同じ変換先に100〜130MHzという、アナログテレビ放送の1〜3チャンネルの跡地で放送されているVHF-Low帯のマルチメディア放送の電波のイメージが混信してくるのでちょっと具合が悪い。
切りのいい100MHzだと、変換先が100〜130MHzで、やっぱりVHF-Lowとぶつかります。
で、もうちょっと上の125MHzあたりに決めました。
秋葉原の aitendo で、素性のよくわからない 125MHz の発振器、200円。
受信した信号と局部発振器の出力を混ぜて周波数を変換するミキサーには、ダイオードを使った DBM を使います。最近は DBM というとモジュールを買ってくるものらしいけど、昭和の頃は自作するのが普通だったのです。なので自作します。
昭和の終わりごろ、高周波ともだち(小串さん、元気にしてるかな)が「DBMでも作りなよ」と10本セットで持ってきてくれた、テレビのUHFチューナーに使うミキサー用のショットキーバリアダイオード。テスターでVf(電圧降下)を測って、特性が揃ったやつを4本選びます。
DBM のトランスは、トロイダルコア FT-37-43 に、細いポリウレタン線を3本束ねてトリファイラ (Trifilar) 巻き、8回。
巻き線が区別できるように、マジックで色を付ける。
色を塗った巻き線をよくよじる。
で、トロイダルコアに8回巻。
ダイオードはブリッジ状というか、リング状につなぎます(DBM の別名がリング・モジュレーターなのは、これが由来)。名著「トロイダル・コア活用百科」の教えに従って、短く空中配線。
トロイダルコアのトランスとダイオードをつないで、自作DBMモジュールのできあがり。
クリスタルコンバーターのカギになる部品、水晶発振器とミキサーが揃ったら、できたも同然です。
こんな回路にします。
発振器の電源電圧が3.3Vなので、電源にする USB の 5V を三端子レギュレータで降圧。
発振器はケースに収まるサイズに切った両面基板の裏面に表面実装して、信号の漏れを抑えます。
発振器の出力はインピーダンスを無理矢理50Ωに整えるために抵抗で作った4dBぐらいのアッテネータを通して DBM の RF ポートへ。普通は LO (Local Oscillator) ポートにつなぐのだけど、今回は、受信する周波数をできるだけ低い方まで伸ばしたいので、構造上、直流まで通せる LO ポートにアンテナからの RF 入力を、本来の RF ポートに発振器をつなぎます。
アンテナ入力と DBM の間には LPF(ローパスフィルター)を入れて、受信したい周波数より上の信号をカットして、125〜155MHzあたりの信号がイメージとして混ざるのを防ぎます。
ローパスフィルターは、設計上35MHzあたりでカットオフする Butterworth 型。
コイルは 6mm のドリルの軸に、0.26mm のポリウレタン線を10回巻。
ミキサーの出力の後には、局部発振器の 125MHz が漏れてくるのをトラップする同調回路が2つ。20pF のトリマーと、3mmの軸にポリウレタン線を8回巻いたコイルで作ります。
そして、50Ωから RTL SDR の入力インピーダンスと思われる75Ωにマッチングさせる、気休めのトランス。トロイダルコアに、バイファイラ (Bifilar) 巻きにした5巻きに、片方の巻き線だけ1巻き多く巻いたもの。
プリント基板の表側をカッターナイフで切ってランドを作って回路をハンダ付けします。
アンテナ入力とローパスフィルター。
DBMモジュールまわり。ダイオードの脚が経年劣化で半田の乗りが悪くなっていて空中配線のリングが接触不良っぽかったので、補助でユニバーサル基板を使いました。
できあがった基板の全体像。
ケースに収めます。
蓋を閉める前に、出力に SDR をつないで局部発振器から漏れてくる 125MHz を受信して、漏れが最小になるようにトラップ回路のトリマーを調整して、できあがり。
RTL SDR を操作するアプリケーションソフトには、アップコンバーターなどをつないだときのために、SDR が実際に受信する周波数と表示する周波数にオフセットをつける機能があるので、125MHz 引いたものを表示するように設定して使います。
Mac の Gqrx で、中波ラジオ周波数帯を受信しているところ。
どこにでもある手に入りやすい部品を使って 1000円ちょっとで作る、HF アップコンバーターでした。