The means justifies the ends
パソコンのUSBポートにつないでテレビの地上デジタル放送を受信する安いドングルを、広帯域のラジオや無線通信の受信機として使ってしまう RTL SDR で遊んでいます。
この目的に使えるドングルは、RTL2832Uというチップを使っているもので、秋葉原あたりで500円ぐらいで安売りしているZOXブランドの日本のワンセグ放送に対応したものとか、通販で1,000円ちょっとで手に入るヨーロッパ〜アジア・オセアニアの地デジであるDVB-Tに対応したもの。どちらも50MHz〜1GHzぐらいの広い範囲の電波を、ハードウェア改造なしに、ソフトウェアをインストールするだけで受信できます。
このドングル、ハードウェアをちょっと改造すると、100KHzぐらいから28.8MHzの、長波〜中波〜短波の電波も受信できるようになるんですが、先日、いつもの AliExpress で、この改造に対応した受信機のキットというのを見つけました(これ)。
で、大枚25ドル払って輸入してみたのですが、キットの組み立てにけっこうコツが必要だったので、これから購入を検討されている方へのメモです。
まず、このキットの概要から。
キットには RTL2832U と R820T を使った DVB-T のドングルが入っていて、ドングルの中身の基板だけを取り出してそのまま親基板にはめ込むようになっています。
ドングルのアンテナ入力は、親基板のエッジについている SMA コネクタにつながっています。
ドングルの RTL2832U は I+/I- と Q+/Q- の2組の RF 入力のうち、I+/I- のペアしか使っていないので、Q+/Q- のペアが空いています。この空いた Q 入力に別のアンテナ入力端子をつないで、Q 入力からの電波を 28.8MHz のサンプリング周波数で直接 A/D 変換して、そのデジタル信号を FFT 変換して受信したい周波数の成分だけを取り出すというしかけです。
親基板には上記ふたつのアンテナ入力コネクタと、PCに接続するためのミニUSBコネクタがついていて、シールドされたアルミのケースに収まるようになっています。
さて、このキットの最初の難関は、組み立て説明書がついていないこと。
キットに入っている基板にシルク印刷されている BA5SBA という中国のアマチュア無線局のコールサイン(たぶん、このキットを設計した人)を手がかりに検索すると、同じキットを組み立てた英語の記事が見つかりました。
http://www.rtl-sdr.com/ba5sba-direct-sampling-kit-english-build-instructions/
この記事には、BA5SBA 本人が作ったと思われる、ちょっとたどたどしい英語マニュアルの PDF へのリンクがあるので、これに沿って組み立てます。
http://rtlsdrblog.rtlsdrblog.netdna-cdn.com/wp-content/uploads/2015/07/rtl-sdr-diy-kits-installation-instructions.pdf
表面実装部品(抵抗とコンデンサ)が実装済みの基板に、まずアンテナ入力の SMA コネクタ、ミニUSBコネクタ、LED、ジャンパーピンをハンダ付け。ジャンパーピンは、アンテナ端子に電源用の直流5Vを重畳させるかどうかの切り替え用。アンテナ端子の先に電源を使うプリアンプとかアップコンバーターをつなぐときに便利。
続いて、電解コンデンサ3つをハンダ付け。Vccデカップリングの大きいやつ1つと、ドングルの上のデカップリングコンデンサを補強する小さいのが2つ。
インダクタのコイルを巻きます。
これ、コイルの材料。トロイダルコア、0.26㎜φぐらいの太めのポリウレタン線、そして極細の3色のポリウレタン線が束になったやつ。
太い方のポリウレタン線は、直径3㎜の棒(ドリルビットを使いました)に11回巻き付けてコイルにします。
それを、2本。このコイルは、ダイレクトサンプリング受信側アンテナの入力から、不要な28.8MHz以上の電波を排除するローパスフィルターに使います。
3色の極細線はトロイダルコアに巻いて不平衡のアンテナ入力を、ICの Q+/Q- の作動入力に平衡接続するためのバルンにします。
トリファイラ巻きの伝送線路トランスというやつです。3本の線をしっかりよじってからトロイダルコアに9回巻き。
線の色と巻きはじめ、巻き終わりを間違えないように接続してトランスを作ります。
できあがったトランスを基板にハンダ付け。このとき、余った極細線は、あとで大事な役割がありますから捨てないように。
ローパスフィルターの空芯コイルもハンダ付け。
次に、ドングルを分解して、中の基板だけを取り出します。
アンテナのコネクタ、USBコネクタ、リモコン用の赤外線受光モジュールを外します。
USBコネクタは半田吸い取り器や吸い取り線だけではなかなか外れないかもしれません。さっさと脚をニッパーで切り取ってから半田を溶かして残った脚を取り去るのが楽です。
取り出したドングルの基板を親基板に装着します。
裏表、四隅のグラウンドと、アンテナの入力信号線を切り落とした部品の脚を使ってハンダ付け。
USBコネクタが付いていた基板の穴のうちグラウンド以外の3本(VccとUSB信号線2本)に部品の脚をハンダ付けして、親基板とつなぎます。
それから、ドングルの上のデカップリングコンデンサを補強するためのジャンパー線が裏表1本ずつ。これ、ちょっと分かりにくい。
表側。ドングル側は表面実装されているコンデンサのパッドか、そこに直接つながっているトランジスタの脚にハンダ付け。
裏側。これも同じくコンデンサかトランジスタにハンダ付け。
さて、次がこのキット最大の難関です。
RTL2832U の Q+/Q- 入力のピンにさっきトロイダルコアを巻いたときに余った極細ポリウレタン線をハンダ付けして信号入力のための線を引きだします。
Q+/Q- の入力は4番と5番のピン。残念なことに、そこから基板のパターンはどこにもつながっていないので、細いピンの上にダイレクトに線をハンダ付けする作業です。
とても難しい作業なので、老眼じゃなくても拡大鏡は必須(ほんとは、実体顕微鏡が欲しいぐらい)。
周りに部品が密集しているので、ハンダごてのコテ先も極細でないと無理。
ポリウレタン線の先を心持ち厚めに半田メッキして、半田メッキした部分をICのピンの上に押しつけて、その上からハンダごてを押し当てて半田が融けた頃合いでハンダごてだけそっと離す、という手順がいいと思います。
こんな仕上がりになります。
引きだした2本の線はアンテナ入力のトランス(バルン)にハンダ付けします。
線をそのままにしておくと振動などで外れてしまうかもしれないので、接着剤などで固定するのがよいでしょう。
私は、RTL2832U に発熱対策の小さなヒートシンクを接着してから、線をヒートシンクのフィンの間にホットメルトで固定しました。
これで、完成です。
基板をケースに収めて、ネジを締めたらできあがり。
この写真は蓋を閉める前に動作確認をしているところ。向こう側に見えるのは自作のHF帯アップコンバーターです。
元の VHF/UHF 帯を受信するときは普通のドングルをそのまま使うときと全く同じですが、長・中・短波帯はダイレクトサンプリング方式で受信するようにソフトウェア側を設定しないといけません。
Windows 用の SDR# などのソフトウェアは、GUI メニューからダイレクトサンプリングモードが選べるようになっているものも多いようですが、私が使っている Mac 用の GQRX ではちょっとした魔法の呪文が必要。
デバイス設定のメニューで、Device string という欄に direct_samp=2 というパラメーターを追記してやります。
これは、ベースになっている Osmocom GNU Radio Blocks というライブラリのパラメータで、direct_samp=0 だとダイレクトサンプリングモードをOffに、1 で I チャンネルの、2 で Q チャンネルの入力をダイレクトサンプリングします。
このキットでは Q チャンネルを使っているので、direct_samp=2 です。このパラメータを入力するとき、元から入っているrtl=0の後に、スペースを入れずにつなげて rtl=0,direct_samp=2 と入れてください。スペース入れたりするとクラッシュします。
ダイレクトサンプリングモード、RFのプリアンプなしで、電波を直接A/D変換しているのでゲインは低いですが、ある程度しっかりしたアンテナをつないでやるとなかなかよく聞こえます。ヘタな安物短波ラジオなんかよりはずっといい感じです。
これは、中波ラジオの周波数領域のスペクトラム。首都圏の主要ラジオ局は全部「見えて」います。一番強いのは自宅から数キロのところにある 1422KHz ラジオ日本。
1100KHz とか 1700KHz あたりに見えるのは、たぶん、FM放送のイメージです。
短波帯はこんな感じ。31mバンドに強い放送局がびっしり並んでいます。8.5MHz あたりの船舶無線の周波数に、モールス信号のトンツーが何本も見えて通信の中身がなんとなく読めますね。
ダイレクトサンプリングでの受信、思った以上に実用的でした。
ただ、キットの説明に書いてあるような 28.8MHz まで受信というのはちょっと無理があります。サンプリング周波数が 28.8MHz ですから、ナイキスト周波数の 14.4MHz から上、いわゆる第2ナイキスト領域には中波AM放送とか、短波の強い局の折り返しイメージがしっかり本物と同じ強さで見えています。たまたま 14.4MHzから28.8MHzに強い電波がないので気になりませんが、もしそっちに電波が出ていれば、14.4MHz より下にイメージが見えるはず。
なので、実用的に使いたければ受信周波数を14.4MHzまでにしてその上はローパスフィルターで切り落とすとか、プリセレクター的な同調回路を通して受信したい周波数近辺だけを通すようにするのがいいと思います。
あるいは、DC〜短波の領域を、100MHzぐらいの局部発振器とミキサーでVHF帯に変換して受信するアップコンバーターを併用するのが王道ですかね。
というわけで、次回、HF Upconverter を Double Balanced Mixer から自作するの巻を待て。
ご参考まで。
KQ6Aさんのコメント:
RTL2832Uのピンのハンダ付けが老眼には厳しかったです。
チップのピンを一度ハンダ付けして、その後でハンダ吸い取り線で余分なハンダを除き、ハンダメッキをしてうまくいきました。
おっしゃるように、ナイキスト周波数の上は実用的には難しいですが、40mのCW用のSubRxとして重宝しています。