The means justifies the ends
高周波回路の実験をするときに、あるとなにかと便利なのが広帯域のノイズソース。低い周波数から高い周波数まで、まんべんなくフラットなレベルのランダムなノイズを連続的に発生してくれるのが理想です。
10GHzオーバーの周波数までノイズを出してくれるようなメーカー製のノイズソースは10万円以上してとても手が出ないけれど、そんなに高い周波数の回路はいじらないので、500MHzぐらいを目標に作ってみました。
ノイズソースは、ツェナーダイオードのアバランシェ降伏で起こる広帯域ノイズをアンプで増幅して使います。
まず、普通の3本足トランジスタのベースとエミッターの間に逆電圧をかけてツェナーダイオードと同じ効果を起こさせて、それを中華トランジスタのS9018を3段カスケードにしたアンプに通して見ました。
S9018はhFEこそ100程度ですが、fTが1.1GHzと結構高いので、それなりにいい結果が出るんじゃないかと淡く期待しながら、出力をスペアナで見てみると……
だめだ。横軸1目盛りが5MHz、つまり右端が50MHzのスケールで見ているのですが、低いところからダダ下がりの1/fノイズになってます。癒やし効果はあるかもしれないけれど、広帯域回路の特性測定には使いづらい。
それではと、直流から5GHzぐらいまで増幅できる、MMIC(マイクロ波用のモノリシックIC)を奮発しました。旧 Sirenza Microdevices 製の SGA-4286 というアンプ。外付け部品が少なくて、そのまま何段でもカスケード接続できて使いやすい。昔からすると夢みたいなデバイスですけど、携帯電話などのおかげでこんなデバイスが安く手に入るようになったのがありがたい。これ、AliExpressで1個1ドルぐらい。
ノイズ源には、NECの 2SC3356を使って、両面基板の片面に表面実装します。
さっきと同じ50MHzまでの出力を見てみると……
フラットだ!
1GHzまで。だいたい500MHzまでフラットで、そこから5〜10dBぐらい下がってます。
もっと上を見ると、1.8GHzあたりでガタッと落ち込んでいます。
これなら、十分実用になりそう。
ためしに、このノイズソースの出力を、先日作った RTL-SDR 用 HF アップコンバーターのアンテナ入力に入れて、ローパスフィルターから出てきた信号のスペクトラムを見てみました。横軸は一目盛り10MHz。
35MHzでカットオフするバターワースのつもりで設計したのですが、だいたい論理値どおりに30MHz以上の信号を減らせている様子がわかります。シールドケースを外しているので、上の方にFM放送の飛び込みが見えているのはご愛嬌。
作ったのはこんな回路です。
MMICは同じような種類のものが「ゲイン・ブロック」と称して各社から出ているので、入手しやすいものを選べばよいと思います。MMICのデータシートをにらんで、電源電圧と、ICに電源を供給する150Ωのバイアス抵抗の値を決めます。
基板はわざわざエッチングするまでもないので、カッターナイフで両面基板の銅箔を切ってはぎ取って作ります。表のアースパターンと裏面のベタグラウンドを、ところどころに穴を開けてスズメッキ線を貫通させて半田付けすることで繋いでいるのですが、このいんちきスルーホールをもっとたくさん作ってやるなどすれば、もう少しよい特性が出るかもしれません。