The means justifies the ends
一般消費者向けに幅広くマーケティング活動をする企業にとって、これから結婚する人や、これから生まれる子供の個人情報はたいへん価値が高いのです。
結婚するとなれば披露宴やるかもしれないし、所帯を構えるのにいろんなモノを買うし、引っ越しもするだろうし、家なんか建てちゃうかもしれないし。これから生まれるとなれば、子育て用品一式揃えるし、保育園や幼稚園や学校にも行くだろうし。いずれも一定のパターンに沿った消費行動が起こるので、 幾久しくマーケティング活動の対象としてお付き合いしたい人たちであります。
じつは、そんな人たちを確実に捉えることができるポータルがあります。婚姻届や出生届を提出する自治体の窓口です。
自治体の届け出窓口で待ち構えて、用紙を持ってくる人たちのメアドなり連絡先なりをサラっと聞き出す方法はないものかという課題に、スマートなソリューションを編み出したのが、ライフタイムバリュー最大化の匠、リクルートであります。
役所に公式の書類として提出できる婚姻届や出生届のフォームなんだけど、お役所でくれる殺風景な紙じゃなくて、各地方のめでたいご当地デザインになってる。そして、婚姻届のほうは手元に残せる二人だけバージョンの届け出用紙が、出生届の方は命名紙が、それぞれ同じご当地デザインで付いてくるという特典つきです。
ただし、ダウンロードするときに、入籍予定日だとか挙式の有無だとかあれこれアンケートに答えて、メールアドレスを教えないといけないところがミソ。DMはオプトアウトされる可能性はあるとはいえ、これでライフイベントのスケジュールとメアドが手に入る。おみやげのクッキーだって配れる。
リクルートさんが偉いのは、このサービスをそれぞれの地方自治体のお墨付きサービスにしたところ。協賛した各自治体がこぞって自慢げに「ゼクシィと協働で、こんな素敵なダウンロードサービスを始めました」とプロモーションしてくれてます。
婚姻届も、出生届も、戸籍法上の届け出義務のある大事な書類。その書類について届け出先の役所のWebサイトに調べに行って「ふたりの大事な思い出にどうぞ♡」なんていうリンクがあったら、そりゃ幸せ一杯夢一杯なふたりは無邪気にクリックするわな。
リクルート、えらい。すごい。
これをハツメイしたリクルートさんはすごいんだけど、これにノリノリで協賛している地方自治体さんのほうが、ちょっとナイーブで心配です。
たとえば、福岡市の Web サイト。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/kusei/life/gotoutikonninntodoke.html
引用しますよ。
福岡市は,(株)リクルートマーケティングパートナーズ総研と共働で,オリジナル「ご当地婚姻届」ダウンロードサービスを始めました。
これまで,婚姻届を入手するには,区役所の窓口まで取りにきてもらっていましたが,
これからは自宅にいながらダウンロードサービスがご利用になれます。
ふむふむ。
ダウンロードの方法
このページの末尾に貼ってあるバナーをクリックすると,
リクルートが運営する「ご当地婚姻届」の専用サイトが表示されます。
↓
アンケートに回答すると,ご当地コラボのオリジナル婚姻届を
ダウンロードできます。
と、まるで、お役所の公共サービスの一環みたいな書きぶり。
せめて、アンケートの回答とかメアドとか、個人情報が民間企業に渡ることとか、そこからDMやら「お知らせ」やらが送られてくるのと引き替えだってことはディスクローズしたほうがよくないかしら。
たまたま福岡市の例を挙げましたけど、他の自治体もだいたい似たような感じです。
日光市の場合。
http://www.city.nikko.lg.jp/shimin/gotouti/gotouti.html
現在、日光市と栃木県では結婚情報誌ゼクシィと連携し、日光東照宮や神橋などの日光の世界遺産をデザインした婚姻届・いちごや栃の葉などをモチーフにした栃木県の婚姻届といった「まちキュン・ご当地婚姻届」を配信しています。
(中略)
下記バナーから「まちキュン・ご当地婚姻届」のサイトへアクセスしアンケートに回答していただくことでダウンロードできるようになります。
「ダウンロードサービス」を申し込むとメアドがリクルートに渡るよ、とか、DMとか届くようになるよ、といったような注意書きがされているのは皆無。まるで、だれかが書かないように指導しているみたい。
中には、栃木県が始めたやつを、勝手に広報しちゃってる高根沢町みたいな例も。
http://www.town.takanezawa.tochigi.jp/news/H270327machi-baby.html
栃木県ご当地出生届のダウンロードサービスが開始されました
栃木県では、結婚支援の一環として、株式会社リクルートマーケティングパートナーズと協働で「まちキュンご当地婚姻届」を作成しましたが、これに続き、「ご当地出生届」を作成しました。命名用紙もセットになっていますので、ぜひ、ご利用ください。
「まちキュンご当地出生届」のダウンロードはこちらお問い合わせ先
高根沢町 住民課 総合窓口 〒329-1292 高根沢町石末2053
TEL:028-675-8100 FAX:028-675-8988 jyumin@town.takanezawa.tochigi.jp
危ないなあ……民間では、こういうとき、個人情報の取り扱いであれこれ言われるのをすごく心配して、無垢な人が知らずにメアドを入力しちゃったりしないように、しつこくディスクレイマーを書いたりするんですけどね。いやしくも、戸籍法上の届出窓口だよ?DM用メアド集める民間企業のマーケティング施策を黙って混ぜ込んじゃいかんでしょ。武雄市じゃあるまいし。
知らずに申し込んじゃった人がどなりこんだりして、リクルートさんに迷惑がかからないといいなあ、と老婆心ながら心配しています。
こんなノリで、マイナンバー制度とか始めちゃって、ほんとに大丈夫かね……