The means justifies the ends
ここ数年、音楽之友社のオーディオマニアさん向け雑誌「Stereo」8月号にはスピーカーユニットの付録が付くのが恒例になっています。夏休みの工作よろしく、外側の箱を作ってステレオ用スピーカーを完成させろ、という趣旨。
今年の付録は、初のメタルコーン。振動板にアルミニウムを使った8㎝のフルレンジユニットで、私の身の回りでも「おおきなおともだち」が何人か試していて「けっこういい音が出る」と好評だったので、つられて買ってきました。
雑誌と同時発売で、このスピーカー用の箱のキットが付録に付いたムックが出ていたので、それを買ってきて組み立ててみたのですが、できあがったバックロードホーンは「いかにもホーンを通った」という感じの微妙なクセのある響きで、あまり好きになれませんでした。
そこで、リベンジ。8㎝のフルレンジ・ユニットを気持ちよく鳴らせる箱を作ろうプロジェクト。
いろいろリサーチした結果、TQWT という種類の箱を作ることに決定。
TQWT は Tapered Quarter Wave Tube の略。直訳すると「先細り4分の1波長管」。スピーカー単体だと弱くなる低い周波数の音を響かせるために、狙った低い周波数の音波の4分の1波長の管を使って共鳴させる仕組み。
VIC's D.I.Y.というサイトの詳しい解説と自作例がとても参考になります。
TQWTスピーカーシステム -- VIC's D.I.Y.
で、今回作ることにした原型はこちら。
http://nanno.dip.jp/audio/
60Hzに共鳴する設計のTQWT。設計図のPDFはこちら。
(元のサイトがアクセスできなくなってしまったようなので、ローカルコピーも上げておきます)
この設計は板取りがよく考えられています。
木の板を切り出して接着剤で貼り合わせて頑丈な箱を作ろうとすると、切り出した板の寸法と角度の精度が大事。
直角と直線で囲まれた板をのこぎりで切り出すのはたいへん難しいのだけど、ホームセンターとかDIYショップのカットサービスに使われているパネルソーという機械を使うと、同じ幅の板を直角に何枚も切り出せます。板の幅の絶対値の精度はそんなに高くないかもしれないけれど、ガイドにそって切り出すので何枚切っても同じ幅になります。
それで、この板取りは、パネルソーのそんな性質を利用して、くみ上げたときの箱としての精度が高くなるように工夫されています。
材料の板は、厚さ15㎜のMDFを使いました。しっかり密度があって、加工が楽。値段もサブロクの板1枚で4000円ぐらいとお手頃。これをパネルソーで185㎜巾4枚と120㎜巾8枚(1枚は予備)に切ってもらいました。
長さ方向は、自分でのこぎりを使って切りそろえます。使うのこぎりはゼットソー。フリーハンドだとシロウトが正確に直角に切るのは難しいので、ソーガイドを併用します。
天板と底板になる120㎜×170㎜の板4枚は、特に加工精度に注意します。そのほかの板はパネルソーで切った精度の高い直角をうまく使って、手切りのほうを精度が低くていい面に使ったり、ずれたぶんをはみ出させて後からカンナで削り取るようにすれば箱になるけれど、この天板と底板は両端が手切りになるので、ごまかしが効きません。切った後に完全スコヤなどで直角を確認して、精度が出ていなかったらカンナで修正します。
元の図面の板取りではなく、予備の120㎜巾の板も使って、2枚の120㎜巾の板の両端から170㎜ずつ切り出すようにするのもいいと思います。あるいは、この4枚だけパネルソーで切ってもらってもいいかもしれません。
共鳴管を作る箱の中の仕切りの板は斜めに固定するので、片方の木口をカンナで斜めに仕上げておきます。板の裏側が1㎜ぐらい短くなるぐらいの傾斜です。これは現物合わせで。
スピーカーユニットやターミナルを取り付ける丸穴はホールソーや自在錐で開けると簡単。なければ糸鋸で開けます。
スピーカーを取り付けるネジは付録に付いている木ねじでもいいのですが、あとで着け外ししてもねじ穴がバカにならないように、鬼目ナットを埋め込んでM4のビスで止めることにしました。
板を切り出したら、組み立てます。一度にたくさんの接着面を着けようとすると失敗しやすいので、手間がかかっても2枚ずつ組んでいきます。直角が出ている木口の面に木工用ボンドを塗り、貼り合わせる板の面に押さえつけます。そのとき、側板を床に置いて、側板の直角を定規がわりにして、接着剤が固まり始めたころに微調整をして精度を出していくとうまくいきます。
貼り付ける順番は、次の順序がよさそうです。
ここまででこんな仕上がり。
下になっている側板を接着したら、上からもう一枚の側板を載せて、その上から重しで押さえてしっかり圧着しながら固めます。写真の右側の箱は重しが乗っています。
天板と背面を貼り合わせた角の内側には、余った短い板を貼ってみました。反響を落ち着かせる気休めのおまじないです。
さて、先達の記事をいろいろ読んでみると、TQWTは吸音材を入れて共振周波数の整数倍の周波数の定在波を抑えてやらないと変なクセのある響きになってしまうようです。
吸音材の調整はエンクロージャーを組み立ててしまってから、蓋を開けて吸音材を出し入れできるようにするのが理想なんですが、今回はボンド接着で組み上げてしまいたかったので、この時点で残りの側板をクランプで仮止めして音を鳴らしながら調整してみました。
試行錯誤の末、このような位置に吸音材を入れました。
使った吸音材は3Mのシンサレート。車の内装吸音材としてよく使われていますが、細々と寝具屋さんなんかで通販していました。安い雑フェルトでもまったく問題ないと思います。
スピーカーの背面にあたる仕切り板の部分は、吸音材を効かせすぎると低音の響きがやせてしまってつまらない音になったので、そこだけシンサレートではなく荷物の緩衝材についてきた薄いポリスチレンフォームを貼ってあります。
背面と底面の角のところの吸音材は組み立てた後からでも手が届くので後から微調整。ここと背面と天板の角の吸音材は、箱の後半分の空間で起こる定在波で起こる中域の濁りを殺すのに有効。
吸音材を入れたら残りの側面を接着して、重しを載せて固まるまで圧着します。
裸のMDFのままだと貧相なので、塗装したり表面にシートを貼ったりしてお化粧します。見た目もよくなりますが、音の響きも大きく変わります。
今回は本物の木の板を薄く削いで和紙で強化した突板を貼ったのですが、貼る前はハイハットの音がうるさく前に出ていたりしたのが、貼った後はバランス良く自然な響きになりました。
突板は家具の加工なんかによく使われているので、その筋の専門店から買うと安くていいものが手に入ります。
府中家具.com http://wood.shop-pro.jp/
ツキ板屋GIFU(坂商会) http://banshokai.co.jp/
突板はそれぞれの面ごとに貼っていきます。
貼り付けたい面より縦横1㎝ぐらいずつ広く切った突板を用意してから、突板を貼る面に木工用ボンドをまんべんなく塗って、
ボンドをダイソーで買ってきたペインティングナイフで薄く隅々まで延ばし、
突き板を貼り付けてから、固く絞った濡れぞうきんで突き板を少し湿らせながら、中に入った空気を追い出すように貼り付け、
100℃ぐらいの低温にしたアイロンで湿り気を乾かしながら圧着し、
ボンドが透明になるぐらいに固まったら、突板が脇からはみ出した部分をカッターナイフで一気に切り落とします。
こうやって、全部の面を貼っていきます。
ボンドが足りなくて突板の端がめくれた部分があったら、薄いヘラを使ってボンドを流し込んで再度貼り付けます。
ボンドが完全に乾いて固まったら、箱の角に板きれに巻き付けた細目の紙やすりを軽くかけて面取りをして、できあがりです。
突板の上からニスを塗って仕上げるのが常道ですが、ニスの重ね塗りが面倒なので、お手軽に蜜蝋を塗り込んですませました。
仕上げ塗りをするとぐっと高級感が出ます。
このままスピーカーユニットをむき出しにしていると、子供の頃に父の自作スピーカーのコーンを凹ませてしまった苦い思い出が蘇ってきて落ち着かないので、フロントグリルも着けることにしました。
余ったMDFの板を四角く糸鋸で切り抜いてグリルの枠を作ります。
MDFの明るい色がグリルの布から透けて見えるとみっともないので、ダイソーの黒い水性ペイントを塗って乾かします。
布は、ユザワヤの端切れコーナーで売っていた200円のポリエステルのジャージ生地を適当な大きさに切って、これまたダイソーのタッカーとゴム系ボンドで枠に貼り付けます。
グリルの枠をエンクロージャーに固定するのは、ダイソーの木ダボを使おうかと思っていたのですが、木ダボの売り場の近くでもっとよさそうなものを見つけました。
小さくて強力なネオジム磁石と鉄の画鋲です。
エンクロージャーにドリルで磁石の直径に合わせた6㎜の穴を掘ります。
穴の中にゴム系ボンドを塗った磁石を埋め込みます。
磁石に画鋲の平たい面を吸い付けて、上からグリルの枠を押しつけて、現物合わせで画鋲の位置を決めてから押し込みます。
磁石はとても強力なので、グリルがずれ落ちてくることもなく、しっかり止まります。
先に磁石を埋め込んでから突板を貼ればステルスにできたのが、ちょっと心残りですが、これで完成です。
以前作った6L6シングルのアンプにつないで鳴らしていますが、とても8㎝ユニットとは思えない豊かな低音が出て、それでいてラッパの奥でなっているような変な響きも感じさせない、予想以上にいい音が出て、かなり満足しています。
突板仕上げにすることを決めてしまえば、組み立てに木ねじを使っても表に見えませんから、蓋を開けて吸音材のチューニングを何度もやり直すこともできます。懲りたい方にはそちらをオススメします。
ぜひ、おためしあれ。