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The means justifies the ends

オープンスタンダード vs. デファクトスタンダード [SNSはプラットフォームとしての覇権争いに突入したのだ。世界的には。]

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昨日の fbOpen についての記事で「fbOpen の出現で Facebook (と、その互換 SNS)が持つネットワーク外部性と経済外部性がどんどん拡大する」という趣旨のこと書いたら、そこがよくわからないという質問をもらったので、蛇足かもしれないけど解説。どうして fbOpen が SNS とネットを面白くすると思うのか。 SNS みたいなコミュニティが生まれたのは、以前《温泉の中のvulnerableな私 [アテンションエコノミーのその次]》に書いたように「知っている人しかいない、安心できる場所」がネットの上に欲しいというニーズによると思うのです。

ところが、SNS がものすごく流行って mixi のように誰でも(しかも匿名で)参加している状態になると、もうそこは「外」のネットとたいして違いがなくて「知っている人しかいない安心感」のようなものはなくなってしまう。だから mixi とは別に、本当に知っている人しかいないコミュニティを作りたいという要望が出てくるはずなんですね。自分が属しているコミュニティの数だけ別の SNS が欲しくなる。
そういうニーズを満たすためにオープンソース(あるいはフリー)で簡単にスタートできる自前の SNS パッケージが生まれるのはこれまた自然な流れで、日本でも OpenPNE なんかががその役割を担って来た。OpenPNE をやっている手嶋屋さんはよく「人にはたてまえの数だけ SNS が必要」ということを書いていたけど、これってまさに「自分が属しているコミュニティの数だけ SNS を作ろう」ということだと思う。

でも、それぞれのネットワーク (SNS) がまったくつながっていなくてバラバラなのもなにかと不便。わかりやすいところでは、建前の数だけ ID とパスワードを作らないといけないなんて、ひどく面倒だよね。だから、SNS の間でプロフィールや友達のつながり情報などの「上位」のデータをやりとりしたり、SNS の上のアプリを他のサイトでも利用したりできるようにしようと、SNS や SNS の上で動くアプリを作る人に呼びかける動きが、Google が提唱した OpenSocial。

で、OpenSocial に対する Facebook のカウンターが fbOpen。自分のたてまえの数だけ SNS が欲しい人は、むずかしいことを考えなくても fbOpen を使って好きなだけ作れるようになる。
fbOpen を使って世の中にどんどん生まれるであろうミニ SNS は、Facebook 用に作られたアプリをそのまま利用できるから自由に機能拡張できるし、たぶんお互いの間の垣根はしっかり保ったままでログインIDだとかプロフィールなんかのデータを共有したければできるようになるだろうし、別の SNS との間でのメッセージの交換なんかも自由にできるようになるはず。これが、ネットワーク外部性。メトカーフの法則に従って、(双方向性の)ネットワークの価値はそのネットワークに参加するノード(人数)の2乗に比例して増える。価値が増えたネットワークには参加者が増えて、やがて極大まで市場占有率を高めちゃう。ファクシミリしかり、VHSしかり、Windowsしかり。

また、Facebook 用のサービスで収入を得ようとしているサードパーティにしてみれば、プラットフォームがオープンソースになることでアプリケーションが開発しやすくなるのに加えて、アプリケーションが動作するプラットフォームがどんどん増えていくので収益機会も増えていく。するとそれに群がってアプリを書こうという人もまた増える。するとプラットフォームはどんどん便利で使いやすくなっていく。規模の拡大がエコシステム全体の経済効率を改善する経済の外部性。

OpenSocial が「どこの機械でも MS-DOS を使えばシステムコールとファイルフォーマットのレベルで互換性がある」というレベルの外部性だとすると、fbOpen は「IBM PC の互換機を作れば BIOS レベルや、I/O やメディアの物理フォーマットのレベルまで同じだから、同じバイナリがそのまま動く」というぐらいに外部性が高い。これは強いよ。「日本語の壁」とかに守られて国内では盤石の基盤を持っていたはずの日本独自のハードウェア仕様の“PC”が、気がついたら上で動く OS やアプリまで含めたシステムでのネットワーク外部性と経済の外部性の力で、最後には世界規模の“PC”に駆逐されたのは、まさにこの効果。

でも、落とし穴もあります。IBM-PC の場合、互換機が主流になってしまったために、IBM がその後継として優れたバスアーキテクチャ(だったはず)の MCA を提唱しても誰も着いて来ず、結局 IBM 自身で「IBM-PC 互換機」に再参入することになり、それはそれでうまく行ったものの最後は PC の生産から撤退することになった。極大まで市場占有率を高めた Windows は、今は Linux や、死んだはずだった Mac に市場を食われ始めてるし、そもそも闘いのルールが変わって今や勝敗を握っているのはOSやアプリじゃなくて、その上のネットワーク上のサービスのレイヤーだ。

さて、このオープンスタンダード対デファクトスタンダードの闘い、誰が勝つことになるんでしょうか。それぞれ別々の主体が緩くつながる OpenSocial のほうが今日的には見えるけれど、fbOpen が頼る外部性には破壊力がある。SNS 業界の中の人たちがどういう風に動くのか……というわけで、勢力地図がどういう風に変わっていくのか、高見の見物を決め込んでいるわけです。

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