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The means justifies the ends

個が立つ時代の企業広報 [企業のためのブログ・マーケティング]

年末に読んだ「理系思考――エンジニアだからできること」という本がとても面白かったのでその本の事を書こうと思っていたのですが、昨夜シックス・アパートの関さんから新刊の「ブログ・オン・ビジネス――企業のためのブログ・マーケティング」という本をいただいて、話の流れ上こっちのほうがタイムリーだったので、先にそちらのお話を。

この本は、企業がブログをビジネスに活用する場合に気をつけるべきことや必要な心構えを書いた本です。
ブログのビジネス活用としては、イントラネット内のブログで従業員一人一人の行動のログを共有する社内コラボレーションのツールとしての応用と、インターネット上で企業と(見込み客を含む)顧客とのコミュニケーションを図る企業広報のツールとしての応用が思いつきますが、この本では後者の企業外向け広報ツールとしての利用法にフォーカスしています。
企業向けのブログの導入実績が多いMovableTypeの会社が書いた本らしく、J-WAVE柴田書店 食の殿堂リクルート(R25)といった企業ブログの成功事例もレポートされています。 企業広報ブログの効用は大きく分けて3つあると私は考えています。
  • 企業トップや企業内の現場の人のコトバを世間に広めて、企業のメッセージを顧客にダイレクトに届ける
  • ブログのメッセージに応答する顧客からのコメントやトラックバックを通じて、個別の企業活動に対する顧客の要望や反応をダイレクトに拾い出す
  • 上記のダイレクトで双方向なコミュニケーションを通じて、企業と企業活動に対する顧客からの信頼と親しみを生み出す
この本や、ハーバードビジネススクール出版のニュースレターのDoes Your Company Belong in the Blogosphere?では、企業ブログでコメント欄を使った顧客との双方向コミュニケーションの重要性をしつこく説いていますが、上の3点を念頭に置いてこの本を読むと、なぜコメント機能やトラックバック機能を殺してある企業ブログがダメなのかがすっきり理解できると思います。

また、ブログによる企業コミュニケーションは従来の手法と次の点が大きく違います。
  1. 従来の企業広報では企業のメッセージが広報担当によって組み立てられたのに対して、この新しいスタイルでは広報の職業的な訓練を受けていない企業内個人から発せられる点
  2. 従来手法ではメッセージが放送・新聞・出版などのメディアで選別されて二次情報として届けられたのに対して、この手法ではメディアを通さずに、メッセージに興味(アテンション)を持つ顧客に一次情報としてダイレクトに届く(ギョーカイっぽく言うと「刺さる」)点
  3. 従来手法では発信したメッセージは一方向に送りっぱなしだったのに対し、この手法では反応がダイレクトに返ってくる上、帰ってきた反応が他の顧客にも見えてフィードバックがループを作っている点
この本では、この違いのうち、特に2と3の点を踏まえて、企業ブログを運営するときにはどういう点に留意すべきかを簡潔に説明してあります。
そのあたりは、本を読んでいただくとして、この本でカバーされていない1の点について。

最近の企業広報活動では、社長であれ従業員であれ、企業という組織ではなく企業内の個人にアテンションが集まってしまう傾向が強まっています(Michael Goldhaberは最初にアテンション・エコノミーと言う考え方を提唱したメモで、「コミュニケーションの透過性が高まってアテンション・エコノミーが進むと、アテンション対象としての組織は消滅し、アテンションは組織の背後に隠れていた個人に向かうようになる」と予言しています)。
ブログではありませんが、マンションの耐震強度偽装問題で、テレビのインタビューを受けて舞い上がったヒューザーの社長が「私をオジャマモンと呼んでください。番組に出させてください。」という内容の痛いコメントをしたり、国会で他人を恫喝したりと、場の空気が読めていないメッセージを連発して、どんどん信頼性を落としていきました。これなどは、個が立つ時代のメディアのあしらい方が分からない人に突然アテンションが集まったために起こった失敗の分かりやすい例と言えるでしょう。

既存メディアを通じて送り出すメッセージをコントロールする旧来の企業広報では、間違ったメッセージが届くことがないようにするためにメディアを適切に“あしらう”職業的訓練(メディアトレーニング)をしたプロフェッショナルだけが広報活動に携わっていたのですが、アテンションが個人に向かうようになると、情報発信者であるそれぞれの個人にメディア(この場合はインターネット上の「大衆」)と向き合って適切なやり取りをしていくという新しいスキルが求められるようになります。
そのスキルが全くない人に企業ブログを預けるのは危険です。ヒューザーの例のように不適切なメッセージを出してしまったり、コメント欄が「荒れ」て手がつけられなくなったりして、企業のイメージを悪くしてしまうリスクがあります。
企業ブログでコメントやトラックバックを止めているのはコメントが荒れることを恐れているからだと思いますが、ブログを書く人がちょっとしたエントリーの表現の工夫や適切なコメントへの対応を行い、誠実に明るくコミュニケーションをリードしていくという簡単なスキルを身につければ、そういった事故はほとんど防げるように思います。

誤解を恐れずに強引に単純化すると、これまでの企業広報は情報がメディアの目を通して誇張されて伝わることを前提にし、余計な情報が間違って伝わらないことに力点をおいた“守りの広報”だったのに対して、アテンション・エコノミーが成立した社会における企業広報は相手とコンテクストにあわせた適切なメッセージを臨機応変に繰り出しながらメッセージの全体像を構築していく“攻めの広報”であることが求められるということでしょうか。

新しい時代の企業広報とメディアトレーニング、誰か体系化してみませんか?

コメント

mitaraiさんのコメント:

明けましておめでとうございます。

年末にももしかするとお話したかもしれませんが、是非「新しい時代の企業広報とメディアトレーニング」やりたいですねぇ。

ただ、企業コミュニケーションのトレンドが変わるには、表面的な企業広報というところだけの問題じゃなくて、経営そのものの考え方が変わらないとやはり難しいなぁと思っています。ひぐちさんのプレゼンじゃないですけど。

#ニフティの古河社長のブログも、ココログ騒ぎで大変なことになっていましたが、私のような第3者にはそれが立派な対応だと思えても、渦中の人には納得できないことの方が多いでしょうね。つまるところ、そのユーザーの声を汲んで、何をするかじゃないかと。

nob sekiさんのコメント:

ご紹介ありがとうございます!

> 従来の企業広報では企業のメッセージが広報担当によって組み立てられたのに対して、この新しいスタイルでは広報の職業的な訓練を受けていない企業内個人から発せられる点。

この指摘、私のように元々、広報関連業界にいた人間からみると、見逃しやすい視点なので、大変参考になります。

「守りの広報」と書かれていますが、今までの広報では、エンドユーザー(という言い方が適切かどうかはおいておいて)との間で、何度もやり取りが発生しない、という前提があったために、どうしても「守りの姿勢=誤解されないような表現」になっていたような気がします。

ブログを使うと、何度もやり取りできる(=だからコミュニケーション)わけですから、多少荒削りな内容でも、コミュニケーションを経て立派な内容になる、ということもありえるわけですね。

もっとも、自分のブログ以外に広がっていく情報はコントロールできませんから、覆水盆に帰らず、であることは言うまでもないのですが…

樋口 理さんのコメント:

御手洗さん:

> 年末にももしかするとお話したかもしれませんが、是非
>「新しい時代の企業広報とメディアトレーニング」やり
> たいですねぇ。
ね。体系化するのが面倒そうですけど。
> つまるところ、そのユーザーの声を汲んで、何をするか
>じゃないかと。
御意。

関さん:
> ブログを使うと、何度もやり取りできる(=だからコ
>ミュニケーション)わけですから、多少荒削りな内容
>でも、コミュニケーションを経て立派な内容になる、
>ということもありえるわけですね。
そうですね。
で、その荒削りなコミュニケーションを繰り返している間にも、最終的にオーディエンスの心に残るメッセージのカタチがイメージできていることが大事なのかなと。Deterministic vs. Stochastic。
2006/1/13 12:13

hyperprさんのコメント:

広報のツールとして、従来のメディアと比較して、ブログでは確かに双方向性は高まりますが、担当者に対してのよい意味でのメディア・トレーニングは、対従来メディア同様に必要だ、と考えます。

樋口 理さんのコメント:

hyperprさん

おっしゃる通りだと思います。上記の文章をよく読んでいただくと分かると思いますが、私はメディアトレーニングが必要なくなると書いているわけではなく、メディアトレーニングがもっと重要になってくる、あるいは、今までに加えて新しいメディアトレーニングも必要になる、と申し上げております。
2006/6/7 11:31

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