The means justifies the ends
以前「電動歯ブラシに 10 MIPS ぐらいの CPU が入っている」というお話をちょっと書いたけど、先日たまたま、麻布十番のあべちゃんでやきとんを食べながら中島さんからその真相に迫る興味深いお話を聞きました。
電気エネルギーを振動エネルギーに、あるいは逆に振動エネルギーを電気エネルギーに、というようにエネルギーを別のエネルギーに変換する素子をトランスデューサーと呼びます。電気信号と空気の振動である音を相互に変換するスピーカーやマイクも、それから電気を光に変える電球も広い意味ではトランスデューサー。
中島さんによると、電動歯ブラシの代表的な製品であるソニッケアー (Sonicare) はブラシを振動させるトランスデューサーの技術が傑出していて、そこに CPU が活躍しているらしいのです。
ソニッケアーのブラシは根本の部分に強力な磁石がついていて、おそらく本体側のコイルに交流を流して、その磁界で磁石を動かした振動がブラシに伝わるしくみなんだろうなということは容易に想像がつくのですが、実はただ交流を流しただけではあの速くて強力な振動は起こらなくて、磁石がついたブラシの金属アームに共振を起こさせるように CPU を使って磁界を絶妙に制御しているんだそうです。その仕掛けとノウハウがソニッケアーのコアの基礎技術なんですね。
普通にモーターで振動させるとせいぜい50Hzぐらいの振動しか作れないし、可動部分が多くて寿命も短いのが、この技術で圧倒的な差別化ができているわけです。
フィリップスが数年前にソニッケアーを買収したのもこの技術が欲しかったためらしく、この技術を開発した人は買収後も数年間会社にとどまる、いわゆるロックアップ期間が設定される契約になっていたのだとか。
で、中島さんによると、先だってこのロックアップ期間が切れて晴れて自由の身になったその開発者さんに出資者がついて、この共振による速くて強力な振動を起こす基礎技術を使った、まったく違う分野の民生用製品の開発が始まり、その製品の試作品が完成したそうです。
それがどういう分野の製品かは、ちょっと事情があって公の場でははばかられるのでここでは伏せますが、その試作品の試用実験では類似の既存製品を圧倒的に凌ぐ絶大な威力を発揮したとのこと。いやはや、興味深い。
よい子はソニッケアーをほかの用途に転用したりしないように。