The means justifies the ends
久しぶりにいいものをみせてもらいました。
私が関与しているある会社がWebサイトのリニューアルを計画しておりまして、私も常々尊敬申し上げている有名な制作会社さんにデザイン面の企画をお願いしました。
制作会社のディレクターさんが発注側のスタッフに指示を出す形で、ターゲットオーディエンスのペルソナを作るディスカッションをしたり、いろんなWebサイトのデザインの好みについてのアンケートを取っているのを横目で見ていたのですが、先日、デザイン案のプレゼンに呼ばれたので話を聞いてきました。
そしたら、これが「ちょっと、これはないわ〜」という、突っ込みどころ満載な内容で、ついうっかり大人げなくちゃぶ台をひっくり返してしまったのですが、せっかくですので、事例として、固有名詞を伏せてそのほんの一部をご紹介させていただきます。
以て他山の石と為すというか、人の振り見て我が振り直せというか。制作会社の人に限らず、マーケターやコンサルの皆さん、こんなプレゼンしちゃいけないよ、ということで参考にしてください。
プレゼンに先だって、発注側である私たちの社内の部門長や役員クラスの人たちを対象にしてサーベイが行われました。
サーベイの内容は、世界中のいろんな会社のWebサイトを並べて、それぞれのサイトについての印象を訊ねるもの。設問の内容は「XXXX(発注者の社名)の企業イメージと近いですか?」とか「グローバルな印象を受けますか?」とか「企業で働いている人を感じられますか?」とか「YYYY製品(発注者の会社の主力製品のカテゴリー名)顧客に与えるイメージとして適切ですか?」といった7つで、それぞれに4段階で答えるという設計。
何のためにこんなサーベイをしているのかと思っていたら、なんと、このサーベイの結果を元に新しいWebサイトのデザインのテイストを決めるって言うのでびっくり。
申し訳ないけど、Webサイトを見てもらうのは社外にいるターゲットオーディエンスなので、社内のエライ人が好ましいと思うデザインテイストにされちゃ困るんですよ。そりゃ、プレゼンでわけの分かってないエライさんたちが「このデザインは好かん」とか騒ぎはじめて困るのは知ってるし、それを避けたいのは分かるけど。
さらに驚いたことに、せっせとターゲットオーディエンスのペルソナとか作っていたはずなのに、オーディエンスの行動とか好みは、サイトのデザインに何も反映させていないんですと。誰のためのデザイン?
上のサーベイの結果を分析して見せてくれました。総合得点がずば抜けて高かったサイトが2つ。しかし、その2つのサイトはいずれも「御社の企業イメージに近いか?」と「御社の製品カテゴリーの顧客に与えるイメージとして適切か?」の得点が低い。この2つの設問の得点が高かったサイトは別に1つあるとのこと。で、これら高得点サイト3つのテイストに近いものにするのだと言います。
実は、サーベイで示されたWebサイトは、発注した会社とはかけ離れた異業種のWebサイトばかりで、その中に同じようなカテゴリーの会社のWebサイトがひとつだけ混じっていました。なので、この中で「御社の企業イメージに近い」とか「御社の製品カテゴリーの顧客に適切」とか聞かれたら、同業種の会社のサイトが高得点になるのは当たり前。Webサイトのデザインテイストの話とは何も関係ないじゃない。
![]() |
一部伏せ字にしてあります |
そんでもって、上の分析結果で合計点が高得点だった3つのサイトから、御社にふさわしいデザインテイストの要素を抽出しましたと言って出てきたのがこれ。こういうシーンでおなじみのX-Y軸4象限のマトリクスチャート。様々な要素を多変量解析して、お手本にしたいグループに特徴的な要素を2つ抽出しました、っていうやつ。
ちょっと待ってよ。好き嫌いの点数の総合計の順番に並べただけの一次元のリストが、なんで二次元チャートに展開されるのさ。しかも、X軸は左に行くほどPOPで、右に行くほどStylish、Y軸は上に行くほど女性的で、下に行くほど男性的って、そんなのあなたが恣意的に選んだ主観的な分類で、分析じゃない。これで、「御社にふさわしいテイストはPOPで男性的なデザインです」って、どういうことよ。
大変僭越ながら、私なら同じチャートを使って全然違う結論いくつでもひねり出してあげる。「上に行くほど赤っぽくて、下に行くほど青っぽい。左に行くほど白っぽくて、右に行くほど黒っぽい。よって、御社のみなさんのお好みのテイストは白っぽくて青っぽいヤツです。」とかね。
これからのお付き合いもございますので、あえて匿名化して苦言を申し上げますが、これを機に、御社らしい、私どもをうならせるようなすばらしいデザインをご提案いただけるよう心からお願い申し上げる次第です。
よい子のみんなも、わかったようなチャートのもっともらしい説明に気をつけましょうね。