The means justifies the ends
おなじみ Wired 誌から。今年の5月号に "10 Best Head-Scratching Stories, Explained" という小さい記事が載っていました(オンライン公開版はこちら)。
Head-Scratching ってのは「(困惑して)頭を掻くような」ということから「難解な」という意味。
難解なことで有名なおなじみの映画や小説、それからプロモーションビデオなどの中身を超シンプルに短く説明したものが10個。
おもしろかったので、さくっと日本語に訳してみました。見たり読んだりしてない作品もあって、適切な訳じゃないところがあるかもしれないけど、そこはぜひご指摘お願いします。
まずは、スタンリー・キューブリックのあの名作から。
モノリスは急激な進化を誘発する。猿をヒトに、コンピュータを人工知能に、ヒトをイカレたヒッピー宇宙人に。
ピンクのパパが死ぬ。先生が彼をいじめる。母親は過保護。妻は浮気して逃げる。彼は偏執狂で孤立。名声からは逃げられない。
飲んだくれが2人、エーゲ海のオデュッセイアみたいにダブリンをうろつく。ブルームの妻は浮気してる。みんなうんこする。
ジミーはおじいさんの人生を追体験する。そしてついに父親に会うが父親はすぐに死ぬ。スーパーマンは彼を救えない。
デッカードはレプリカントだが彼自身はそれを知らない。ギャフは知っているがデッカードを処分しない。作り物の記憶でもヒトは人間になる。
地球は5年以内に破壊される。ジギーはその知らせを歌う火星人のロックスター。彼は未来のスターマンの到来の予言者になる。スターマン悪い。
最初の3分の2は、ダイアンがカミーラ(最後の3分の1からの人物)を殺すように依頼して自殺した後の自慰的幻想。
テロリストたちが失われた世界一面白い映画フィルムを探し求めている。麻薬、娯楽、テニス、その他どんなものに対しても中毒はやばい。
白人野郎が女を襲う。黒人が投獄される。目撃者のマドンナは黒いイエスに祈り彼が生きていることを夢見る。彼女は密告する。囚人は釈放される。
パラレルワールドが開いちゃった。我々の住む世界に崩壊の危機が迫っている。ドニーが自分を犠牲にして我々を救う。
もとの文章は長い奴で140字ちょっとオーバーだったんだけど、日本語にしたら75文字以下。余裕でツイッターでつぶやける長さになりました。
さて、ここから余談。
いろんな人が言っているけど、ついったーの140文字の制限って、英語ではけっこう厳しくて、いろんな略記をつかってもなかなかまとまった主張とかは伝えにくい。ところが、日本語だとかなーり濃い内容を伝えることができます。
これは、日本人が伝統的なハイクの技能によって短い文章で意を伝えることに長けているからでも、日本語が異様に効率が良い尊い言語だからでもなく、単に日本語の文字(あるいは、いわゆるダブルバイト文字)一文字あたりの情報量がラテン文字一文字あたりの2倍ぐらいあるから。
たとえばソフトのマニュアルとか英語のまとまった文章を日本語に訳すと、シフトJISのテキストの場合、元のASCII文字のテキストとだいたい同じ(実際にはちょっとふくらむことが多いけど)バイト数のレンジに収まります。でも、シフトJISの文字1文字は2バイトなので、半分近くの文字数しかない(これまた実際には1文字1バイトのいわゆる半角文字も混じっているので、半分よりちょっと多い)。
さらに、ツイッターでも使っている UTF-8 文字コードの場合は冗長と言うか、エントロピーが低いと言うか、かな漢字は1文字伝えるのに豪勢に3バイトを使うので、同じ140文字って言っても、英語に比べると約3倍のビットを使って、約2倍の情報量を伝えてることになるんですね。
もともと、ついったーの140文字制限は携帯のSMSで伝えることができる160文字(=160バイト)の中に、ユーザーIDとメッセージ本文をつめこむための制約だったわけなので、本当なら日本語も140文字じゃなくて140バイトの制限のはずなんだけど、実装したときにバイト数を数える関数じゃなくて文字数を数える関数を使ったんでこういう仕様になっているんじゃないかと想像します。
あ、そうそう。Wired の元記事のオンライン版についていたコメントの中で、似たような記事が紹介されてました。
(postmodernbarney.com) » Uncomfortable Plot Summaries
こっちは、難解な物語を「解釈」するというより、客観的にばさっとかいつまんだという感じで、200近い映画の超あらすじが並んでます。圧巻。
たとえば、こっちの説明によるブレードランナーは「目立ったスキルのない男が逃亡したロボット達に出くわす。ほとんどを仕留め損ねて、ひとつとやっちゃう。」だそうです。客観的ですね。
それにしても Infinite Jest って、面白そうだなあ。柴田元幸先生あたりの訳で出ないかしら。