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気持はわかる [アーシングについて考える その1]

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大阪の友人が新しく買ったクルマに「アーシング」を試していると聞きました。アーシングというのは初めて聞く言葉だったのでGoogle様にお伺いを立ててみたところ、どうやらクルマのバッテリーのマイナスに戻るアース線(グラウンド線とも言いますね)を強化することで、いろいろイイことがあるというチューニング手法の一種で、かなり流行しているようです。というわけでアーシングについて考察してみました。 まず、「電気はよくわからん」という方のために「アースとは何か」を、はしょって説明しておきましょう。
ラジカセでも、テレビでも、クルマでも、金属のシャーシ(土台、クルマ用語ではボディ)がある電気回路では、そのシャーシが電源のマイナス側につないであるのが一般的です。こうするとシャーシのどこに電線をつないでも電源のマイナス側に直結したのと同じことになります。電気的には、マイナス端子と同じ「電位」を持った平面があるように見えます。
昔のラジオなどでは、このシャーシと地面(=グラウンド)、つまり地球(=アース)を電線でつないでいたので、電源のマイナス側につなぐ線のことをアースとかグラウンドと呼びます。
電源のプラス側から電気回路に電気を供給して、その電気が回路の中をいろんな流れ方をしながら電気信号を作ったり、加工したりする「お仕事」をします。で、お仕事が終わった電気は、手近な「アース」を通じて電源のマイナス側に戻っていきます。
じゃ、マイナス側につなぐ電線は、シャーシのどこにつないでも同じかというと、実際の電気回路ではそう簡単ではありません。シャーシも実は少ーし電気の通りが悪かったり(電気抵抗がある、といいます)、高い周波数の信号を扱う回路では、電線がコイルのような働きをしたり、電線とシャーシの間に小さなコンデンサがあるような振る舞いをしたりと、いろんな影響が重なり合って、予想外の働きをすることがあります。
ですから、電気やさんの間ではアースの線をどういうふうな長さや太さにして、どこにつなぐか(これを「アースの取り回し」とか「引き回し*1」といいます)は、熟練のワザが必要なゲージュツとされています。アースの引き回しの薀蓄をわかりやすくまとめた電気屋さんのバイブル、伊藤健一先生の「アースシリーズ」がシリーズ全部で14冊にもなっているということからも、アースの奥の深さがうかがえます。
長くなりましたが、要点はふたつ。
  • アース線とは電池のマイナスにつながる線のこと
  • アース線のつなぎかたは奥が深い匠の技
さて、アースについてはこのぐらいにして、本題のアーシングのお話。
アーシングとは、クルマの電気回りのアース強化をすることのようです。アーシングのWebサイトなどの解説を読むと、だいたい次のようなことが書いてあります。
  • クルマの電気回路を設計するとき、コストを削減するために、バッテリーのマイナス端子につなぐ電線を節約している。このため、たとえばオルタネータやヘッドライトのマイナス端子からバッテリーに直接電線をつなぐのではなく、それぞれ近くのボディにねじ止めしてあって、ボディをアース線のかわりに使っている
  • クルマのボディは鉄だから銅の電線に比べて電気抵抗が高いし、ねじ止めのところも微小な電気抵抗がある。この電気抵抗のおかげで、大きな電流が流れるオルタネータやヘッドライトでは電圧降下*2が起こっていて、本来の電圧が供給されていなくなっている
  • アーシングとは、こういう電気部品のマイナス端子とバッテリーのマイナス端子を太い電線で直結することで、これによりアース回路の電気抵抗を減らし、エンジンを本来の稼動状況に近づけることができる。
  • アーシングを施すと、ヘッドライトが明るくなり、セルモータの回転が元気になってエンジンのかかりが良くなり、エンジンの点火が安定し、中回転域のトルクが上昇して「ふけ」が良くなり、燃費が1リットル当たり1キロの桁で改善する。
  • 副作用はない。ただし、電装系のアースを強化すると時計などの暗電流(待機電力ってやつね)が増えて、バッテリーが上がりやすくなることがあるかもしれない。
  • アーシングに必要なのは太くて電気の通りがいい電線*3(色はたいてい赤)とそれをつなぐための圧着端子。圧着端子がついた電線(アーシングキットなどの名で売られています)を買うと1~2万円、でも自分で電線を買ってくれば数千円。
うむ。すばらしいですね。副作用はないし、いいことづくめ。燃費はよくなる、ライトは明るくなる、エンジン快調、これで家庭も円満、奥さん満足、子供の非行は直るし、旦那は出世街道まっしぐら、アーシングさんありがとう、と、クロレラ健康食品のように霊験あらたかですよ、お嬢さん方。
なんといってもアースは電気回路の基本、アースの強化して、悪いことがあるはずがありません。アースの基本はグラウンドループを作らない1点アース。エンジンブロックと、オルタネータと、ヘッドライトと、ファンモータと、カーステレオなんかが載ってるバルクヘッドから、それぞれバッテリーのマイナス端子の1点に直結する太い線を増設してやれば、うちの走行距離数10万キロになりそうなプジョー306も喝が入って絶好調。ラテンなクルマは、きっともともとのアース線は脆弱に違いないから、効果てきめん……とあたしも一瞬思いましたよ。でも、ちょと待てよ?というところで、お昼休みがなくなりそうなので、今日はここまで。続編を待て。

*1: 「取り回し」と「引き回し」ですが、電気屋さんは「引き回し」のほうを好む気がします。ニュアンスとしては、「引き回し」には電気的にどこからどこへつなぐかというニュアンスが、「取り回し」には機械的・物理的に電線をどう束ねて処理するかというニュアンスが含まれているような気がしますが、そんなことを思っているのは私だけかもしれません。
*2: 電線に電気抵抗がまったく無ければ、バッテリーから直接電線をつないでいる先にはバッテリーと同じ電圧がかかっているはずです。ところが、この電線に少しでも抵抗があると、つないだ先での電圧はバッテリーの電圧よりも低くなります。これを電圧降下といいます。バッテリーの電圧が12Vとして、120Wの電球だと10Aの電流が流れることになります。このとき、バッテリーのマイナス端子と電球のマイナス側の間をつなぐボディとねじ締めの抵抗が0.1Ωあったとすると(そんなにあったら大変だけどね)バッテリーと電球の間の電圧降下はE=IR (オームの法則)で 10A×0.1Ω=1.0V。つまり、1Vの電圧降下があって電球には11Vしかかかっていない、ということになります。
*3: 8 sq ~ 24 sq ぐらいの耐熱被覆銅線が多いようです。ちなみに sq は電線の太さをあらわす単位のひとつ。導線の断面積を平方ミリであらわした数字です。Square mm の略でsq。「スクエア」、あるいは職人っぽく「スケ」と読みます。例:「8sq (はちすけ)の黒いキャプタイヤを10メートルください」

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