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The means justifies the ends

ブログ、グーグル、アテンション [情報の“民主”化とメディア]

ここ2年ほど、インターネットのトレンドなどのお題で講演を頼まれた時に使っている定番のネタがあります。ブログとグーグルの出現が情報流通の民主化を爆発的に推し進めたため、アテンションエコノミー的価値観が現実味を帯びてきた、というお話です。
とりとめのない話で、だらだら書くとものすごく長くなりそうなのですが、次のような内容です。
  • 10年ぐらい前、インターネットが実業界に“解放”されたとき、僕らは「誰もが情報の発信者になれて世界中に情報が流通される」という理想的な情報流通を信じていた。
  • ところが実際には、膨大なトラフィックを集める巨大サイトに情報流通が集中して、既存のマスメディアと同じ1対nの一方的な情報配信モデルが中心になった。
  • 単方向で1対nのネットワークはネットワークの価値を十分に使いきっているとは言えない。それぞれのノードが情報を発信するn対nで双方向のネットワークになったときネットワークの価値が最大化してメトカーフの法則Metcalfe's Lawどおりノード数の自乗に比例する価値が実現する(1対nの場合はリニアに伸びる)。
  • ネットワークとサーバー維持コストの低減とそれにあわせたブログの出現で、普通の人が普段思ったことや行ったことの記録を気軽にきわめて低コストでWebに載せられるようになった。誰でも暗黙知を形式知にできるようになった。誰もが情報発信者になれるn対n=ピア・トゥ・ピア的ネットワークが出現した。
  • ブログの記述法と親和性のよいグーグルの力で、それまでだったら誰にも気付かれずに終わっていた知識(あるいはミーム)が、必要な人に的確に見つけ出されるようになった。
  • ブログとグーグルはただのコンテンツマネジメントシステムと検索エンジンではなく、地球規模の形式知化された知識のネットワークと捉えることができる。
  • この知識のネットワークでは、誰のどんな小さな情報も、いつか世界のどこかでそれを必要としている人の役に立つ(情報価値のロングテイル化)。
  • このネットワークでは、たくさんの相手に一度に情報を配信できる能力といった、旧来のメディアがよりどころとしてきた固定資産と産業資本はあまり重要な意味を持たない。
  • このネットワークでは情報のフィードは無尽蔵に行われるので、情報そのものと情報伝達チャンネル(たとえば、周波数の割り当ての既得権益とか)を希少資源として取り扱う旧来のメディアの存在価値が大きくゆらぐ。
  • ロングテイル化で情報の種類と発信源が爆発的に増えると同時に、デジタル情報の本質として、情報は無尽蔵にコピーされ、フィードされる。これにより、情報そのものの価値が希薄化する。その一方、情報に対する他人からのアテンション(注目)は有限なので、相対的に稀少化する。希少資源である「アテンション」が価値の基準になる。
  • 情報(ブログのテキスト)や情報発信者(ブロガー)の価値は、集めるアテンションによって計られることになる。グーグル(あるいは、他の検索エンジン)は稀少資源であるアテンションを配分する機械として支配的な立場を持つ。
話の内容は、乱暴に言えば10年前にロータス ノーツを布教していたころの「情報共有のススメ」と大して変わっていないのですが、当時は「社内にネットワークを作りましょう、そうすれば会社の知的生産性が上がって儲かります、だからノーツを買ってください」だったのが「世界規模の知的ネットワークができてしまいます、情報が価値を持つ時代が終わってアテンションが価値を持ちます、さてどうしましょう」になっちゃったわけで、往時に比べるとどうもしまりがないのですが、我ながら考えさせられるところが多いテーマです。

アテンションエコノミーと言うと、アクセンチュアのDavenportとBeckが書いた「アテンション!(原題: The Attention Economy)」という本で有名になりましたが、このお話の中に出てくるのは、むしろその原典であるMichael Goldhaber(個人Webサイトはwell.com!)のThe Attention Economy: The Natural Economy of the Netのほうがしっくり来るようなお話かもしれません。アテンション原理主義。
こうなってくると、インターネット上のメディアのあり方も、そろそろ根っこから再設計しておかないと、あっという間に「旧来のメディア」の仲間入りをしてしまいそうです。くわばらくわばら。

ところで、先日、福岡でこのお話をさせていただいた際、お招きいただいた研究所の所長で、私の大学時代の恩師の一人である牛島和夫先生(現在は九州産業大学情報科学部長)と懇親会の席でいろいろお話をさせていただいたのですが、先生曰く「でも樋口さん、こうやって情報の発信が自由になってだれもが情報発信者になってしまうと、査読されない情報があふれてしまうことになりますねぇ」。いいかげんな情報があふれるのはどうしたものか、というお話かと思ったら、すかさず続けて曰く「そうなると、情報を受け取る側には、生の情報のウラを取るメディア・リテラシーが本当に大切になりますね。なんとかっていう女性のジャーナリストの方が書いた新書で勉強になる本があるんですよ……」と「メディア・リテラシー―世界の現場から」を読むように勧められてしまいました。いやはや、まったくおっしゃるとおり。何もかもお見通しで、何十年経っても牛島先生には追いつけません。この本もまだ読んでません。先生、ごめんなさい。

コメント

ひろしさんのコメント:

樋口さん、お久しぶりです。

示唆に富む話です。メディアリテラシーは IT でも暗黙知として形成されてきていると感じます。今後の醸成は既存メディアに対するものより、優れたものになることを期待しています。
ただ、格差はここでも広がるのでしょうね。

オススメの本は予約しました。
2005/10/3 13:37
Host: jpngw01a.yamato.ibm.com - 203.141.89.145

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