先日の箱庭写真が好評で、どうやって撮るのかというご質問をぽつぽつ頂きましたので、簡単に解説を。
結論から言うと
- 被写界深度が極端に浅くなったような写真、つまり、ピントが合っている範囲が狭くて、視点の中心付近から距離が離れると焦点がぼけているように撮る
- そのために、ティルト・シフトレンズなどと呼ばれる特殊なレンズを使う。光軸をカメラに対して上や下(ティルト)、あるいは右や左(スウィング)に傾けられるようになっているレンズ
- 通常、たとえば地面の上のモノを上から見下ろして撮るときは、レンズの筒先を跳ね上げる方向にアオる(傾ける)
以下、もうちょっと詳しい解説。
本城直季さんの作品で有名になったテクニック、レンズのアオリを使って風景をミニチュア模型のように見せる写真。普通の風景を、被写界深度が極端に浅くなったように、つまり焦点が合っている範囲がぐっと狭まったようにぼかすと、なんだかミニチュアのように見えてきます。
詳しい理屈はわかりませんけど、たぶん人間の目で景色を見ているときも周辺のぼけ加減を加味して見ている景色のスケールを認識しているんじゃないかという気がします。遠くの景色を見るときは比較的広い範囲に焦点が合って見えるけれども、近くのモノをのぞき込む時は視点の中心から離れたところは焦点が合っていない。そのため、遠くの景色のような物体でも視点から離れたところがぼけて見えると近くに置いてのぞき込んでいるように錯覚するんじゃないかなと思うのです。
こういう写真、細かいテクニックを抜きにすれば、かなり近いものが僕らのようなシロウトでも簡単に撮影できます。上の写真にあるような光軸を傾けられる特殊なレンズを使います。昔の大判カメラ(フィルムとレンズの間が蛇腹になってるやつ)だとレンズを傾けたりずらしたりできました。レンズを傾けたり横にずらしたりすることを「レンズをあおる」と言っていて、アオリ撮影は大判では普通に使うテクニックだそうなのですが、この技は今の普通の35ミリフィルムカメラやデジタルカメラでは使えません。そこで、一眼レフ用にはこういう特殊なメカニズムのついたレンズが用意されています。ティルト・シフトレンズなどと呼ばれています。光軸を傾けるのがティルト(スウィング)で、横にずらすのがシフト。
シャインプルーフの原理
レンズの面と被写体の面が平行でないとき、つまり、被写体に正対していなくて画の上の方と下の方で被写体との距離が違うと、普通は近いところや遠いところはピントが合いません。ところが、
シャインプルーフの原理というのがありまして(この辺、付け焼き刃なので、つっこみ無用)、そういうときでもレンズの像を結ぶ面を傾けて、被写体の面とレンズの面と映像面の3つが1カ所で交わるようにすると、近いところから遠いところまでピントが合うようになります。
たとえば、目の前にある地面を見下ろして撮るときは、上の図のようにレンズの筒先を下げる方向に傾けると被写体全体にピントが合う。
ためしに、目の前に新聞を広げて撮ってみました。次の写真が通常の通りレンズをカメラに垂直にしたとき。遠いところや近いところが若干ぼけています。
次に、同じ絞り(同じ被写界深度)で、レンズの筒先を少し下げて撮った写真がこれ。今度は上の方も下の方もぼけがほとんどなくなっています。
このアオリのテクニック、本来はこのようにレンズ面に正対していない傾いた被写体全体にピントを合わせるためのものなんですが、では逆の方向にレンズをアオって、筒先を跳ね上げる方向に傾けてみるとどうなるか、という写真がこれ。
1枚目の通常の写真と比べるとわかると思いますが、今度はピントが合っている範囲が狭くなって、かなりの範囲がぼけています。
この方法を使うと、普通の光景がミニチュアの箱庭みたいに見えるようになるわけ。
じゃ、自分でもやってみようと思ったらどういう道具を揃えればいいか。撮影技術の習得とコストの観点から難易度が高いと思われる順。
- 大判カメラを買う。
値段はともかく、いまから大判デビューか?デジタルじゃないから試行錯誤も大変だ。
- ニコンの PC-E Nikkor とかキヤノンの TS-E のような、一眼レフ用の純正ティルト・シフトレンズを買う。
新品で15万円から30万円。
- ウクライナ ARAX のティルト・シフトレンズを個人輸入する。
各社のマウントに合ったものがある。ARSAT、FOTEX、PHOTEX などのブランドのものは全部ここの OEM。eBay なんかでも売っていて、私はそこから買いました。500〜700ドル+送料。
- レンズベビーを買う。
レンズベビーオリジナル(初代)で1万円ちょっと。3G(3代目)が4万円ぐらい。
まあ、真っ当なオトナが遊びで使うのならレンズベビーの初代ですかね。値段が桁違いにお手頃。幸いデジタルカメラだと撮ったその場で結果が見られて、いろいろ試しながらいい結果が得られる方法が身についてくるし、このぐらいシンプルなもののほうが楽しめると思います。自分のカメラのマウントに合うやつを買ってくださいね。
あ、あと番外で
というのもあります。
テクニックを覚えたら、あとはロケーションと構図と色のバランスと光の加減と……楽しく遊んでくださいませ。
ちなみに、アオリにはこのティルト(スウィング)のほかにシフトというのもあって、これはレンズを横にずらして遠近法を狂わせる撮り方。これはそのうち別途ご説明する、かもしれない。