マーケティングの正式な基礎教育を受けていない工学部あがりのいんちきマーケッターである私にとって、経済学という学問は少々縁遠い感じがするのは否めません(もっとも、たとえば流体力学だって同じぐらい縁遠いのだけれど)。そんな私でも気軽に楽しく読めて、アタマがよくなったような気にさせてくれた経済学の本です。
FTのコラムニスト兼IFCのライター兼シェルのエコノミスト兼オックスフォード大学の講師である著者が、スタバのコーヒーの値付けのしかけといった日常的なトピックの裏にある枠組みを経済学的に読み解くとどう読めるか解説しています。
構成がうまい。目次を見ただけで読む気になっちゃうし、すらすら読めます。
原題は“The Undercover Economist”。Undercoverは『秘密活動をする~』といったニュアンスなので、直訳すると『隠密経済学者』(本書の本文中の訳では『覆面経済学者』)。前書きに

この本に出てくるのは、為替や景気循環の話ではなく、中古車市場の謎解きや、スーパーで無駄遣いをしないための知恵である。
読み終わることには、みなさんがいまよりもっと聡明な消費者になって、いまよりもっと聡明な有権者になって、政治家が吹聴する話の裏側にある真実を見極められるようになっていることを願っている。

とあるとおり、本を読み終わるころには、『隠密経済学者』として世の中を動かしている仕組みの裏側を考えるための知識とセンスの基礎が身につきます。
一貫して説かれているのは市場原理に基づく経済学の力を正しく適用すれば世の中の人々を合理的にハッピーにできるという信念。そこから出てくる結論の中には『グローバル化は地球環境にとっても、世界の貧しい人にとっても善である』『“搾取工場”製品をボイコットする運動は、そこで働く人たちの幸せのためにはならない』といった、センチメンタルな直感では一見残酷ですぐに受け入れにくいものもあるけれど、それを冷静沈着かつ明快に説明していて、心地よい読後感さえあります。


ご参考までに、目次はこんな感じ。

謝辞
はじめに
第1章 誰がためにそのコーヒーはある
希少性の力/最も重要なのは「限界」地/牧草地からコーヒーバーへ/移植可能なモデル/地代が高くなる理由/私たちは食い物にされているのか/資源「レント」/割りに合う犯罪/素人に対する陰謀/物議をかもす問題/経済学者は何をすべきか
第2章 スーパーマーケットが秘密にしておきたいこと
まぬけな客/七面鳥に感謝祭をしようと言わせる/コーヒーバーにかぎらない/「自然派」路線で高値をふっかける/「よい買い物」と「安物買い」/混乱を生みだせ!/その企業には本当に希少性があるか/企業は「漏れ穴」をふさげるか/よい価格ターゲティング/悪い価格ターゲティング
第3章 安全競争市場と「真実の世界」
価格は選択可能であり、情報源になる/安全競争市場―真実を、すべての真実を、真実だけを述べる/市場のない世界/価格のシグナル機能/効率性と公平性―私たちは真実を扱いきれるか/市場は公平性を実現できるか/非現実的な例/現実的な例
第4章 交通渋滞
私の世界の何が間違っているのか/運転手の与える影響/「限界費用」と「平均費用」/課金設定と損失額/外部性課金に対するふたつの異論/命の価値/知識のふたつの溝/ニューオーリンズ効果/コスト効率よく汚染と闘う/環境問題はモラルの問題か/好ましい外部性/政府の介入抜きで外部性を解決する/まとめ―経済学とは何のための学問か
第5章 内部情報
内部情報/内部情報と医療保険/レモネードをつくる/レモンと医療とアメリカ/不完全情報の真実/市場の失敗と政府の失敗/キーホール経済学で医療問題を解決する
第6章 合理的な狂気
ランダムウォーク/価値と価格―ランダムウォーク理論を越えて/合理的な愚か者/長期的な視点に立つ/希少性の問題を合理性の観点から考える/希少性と技術
第7章 本当の価値をなにひとつ知らなかった男たち
恋愛と戦争とポーカー/ゲームのなかのゲーム―三十万ドルの家を三千ドル売る方法/常人のためのゲーム理論/競売に参加する/なぜ入札を利用するのか/イギリスの電波免許入札/復習―「力は希少性から生まれる」/夢の後
第8章 なぜ貧しい国は貧しいのか
ジグソーパズルの欠けたピース/政府盗賊理論/いたるところに盗賊あり/重要なのは制度/世界最悪の図書館/ネパールの誘因と発展/貧しい国に発展の機会はあるか
第9章 ビールとフレンチフライとグローバル化
グローバル化は善か/グローバル化は環境にやさしい/搾取工場/特殊利益集団の力/貧しさは改善できるか
第10章 中国はどのようにして豊かになったか
ふたつの農地改革/未来への投資/計画経済からの脱皮/新規参入と希少性の力/中国と世界/エピローグ―経済は重要か
訳者あとがき

ね、面白そうでしょ。

投稿者 樋口 理

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