The means justifies the ends
今年も北海道の川に鮭を釣りに行って参りました。
鮭釣りのお話はこれまでもパラパラとブログに書いてきましたが、尋ねられることが多いのでまとめておこうと思います。
鮭の中でもシロザケとカラフトマスという種類を釣ります。
カラフトマスは鮭缶の原材料として有名です。
シロザケは新巻鮭になるおなじみのやつ。
両方まとめて「サケ・マス」という呼び方をしますが、英語ではどちらも Salmon です。
サケ・マスは夏から秋に川で卵から生まれ、稚魚の時に川を下って餌が豊富な海に出て、北の海を回遊して成長します。カラフトマスは2年後、シロザケは4年から5年後に、生まれた川へ産卵のために戻ってきます。この、産卵のために川を遡上しているサケ・マスを釣ります。
これは、川に入ったばかりのカラフトマスのオス。まだ婚姻色もついていなくてピカピカの銀色。
こちらは産卵後のカラフトマスのメス。産卵のときに尻尾で川底を掘るので尾びれがほとんどなくなっています。
ちなみに、シロザケはほとんど間違いなく生まれた川に戻るのに対して、カラフトマスは間違って違う川に戻ってしまう魚もかなりいると言われています。
また、稀にアメマス(イワナが海に降りてオトナになったやつ)や、サクラマスになるために海に降りていく途中のヤマメが釣れてしまうこともあります。
アメマス。
日本の川を遡上するサケ・マスは、長いあいだ食糧資源として国家レベルで厳しく管理されてきていて、採捕することが法律で禁止されています。サケ・マスを釣っていいのは特例として許可された川だけで、事前にライセンスをもらって一定のルールに従って行われます。ライセンスは無料で申請できますが、入漁料を払います。入漁料は釣り場の維持管理に使われます。
このへんの詳しい話は、またあとで。
リリースします。
レギュレーション上は1日2匹まで持って帰ってもいいのですが、子孫を残すために命がけで川を上っているサケ・マスたちの姿を見ていると、邪魔するのが申し訳なくて(じゃあ、釣るなよ、というツッコミはなしね)。
また、遡上を始めたサケ・マスは餌を捕食しなくなりひたすら泳いでいるのでやせてくるし、淡水域に入って水っぽいし、出産に備えて卵の皮がだんだん固くなってくるし、食べるのなら海で取れたやつのほうがおいしいですよ。
餌釣りも行われていますが、釣りとして面白いのはルアーやフライの疑似餌釣りです(個人の感想です)。
川に上ってきたサケ・マスはグングン上流に上っていくわけではなく、川底近くの気に入った場所で上流を向いてじっとしていて、ときどきスッと上流の次のポイントに移動します。だいたいシロザケは流心に、カラフトマスは瀬の脇に付いていることが多いです。
これは忠類川の隣の古多糠川の上流部まで遡上してきていたカラフトマス。
川の中のピンクっぽい魚が分かりますか?これがすぐに見えるようになると、釣れる確率がぐっと上がります。
川の流れは速いので一カ所に付いている間も魚自身は泳ぎを続けていますが、その間餌を追いかけることはありません。ひたすら来たるべき出会いと生殖活動に向けて川上に向かいます。なので、魚の近くをルアーやフライを引っ張っても積極的に攻撃してきたりはしません。無視するか、そっと横に動いて避けます。ただし、自分の鼻先に向かって流れてくると、邪魔なものを追い払おうとするのか口を使って払いのけようとします。そこを釣り上げます。
つまり、川底近くで魚がじっとしているところの鼻先に向けて、上流からルアーやフライを流し込んで、アタリに合わせる釣りです。
そして、魚が掛かったあとのファイトは超強力です。
人間が膝まで流れに入ると脚を取られそうになるぐらいの急流に逆らって、川上に向かって泳ぎ続ける、丸太のような重さの魚が全力で釣り糸を引っ張って逃げようとします。
無理矢理に竿でしゃくり上げようとすると何かのはずみで折れます。竿のしなりとリールのドラッグを使ってじわじわと魚を岸に寄せて取り込みます。
ちょっと古い動画で画質が悪いですが、シロザケとのファイトの様子。
壮絶です。力の勝負です。クセになります。
とにかく大きて強い魚なので、釣り竿も釣り糸も釣り鉤も太くて丈夫なものを用意します。そうしないと竿が折れます。糸が切れます。鉤が伸びます。
私はフライフィッシングなので特に忠類川でのフライの話をします。
長さ9フィート以上、強さは最低でも#8。重たいフライラインを一日中繰り返し投げることと、釣れたときのファイトのことを考えると、できればダブルハンドロッドが楽。
遠投は必要ありません。遠くまでラインを飛ばしても、ラインが流れに引っ張られるだけで肝心のフライが狙ったところに流れないので釣れません。
私が何本か竿を折った末に行き着いたのは、13フィート #10 のダブルハンドロッド。忠類川の釣りのために企画、開発された天龍の Fates DH North Land 北海道仕様という竿を愛用しています。そして、予備として G. Loomis のサーモン用ロッドも持って行きます。
流れが速くて底石がゴロゴロしている川で、川底近くにいる魚の鼻先をピンポイントで狙ってフライを流し込みます。
全体が重たいシンキングラインを使うと手元が川底に引っかかってしまってコントロールが効きません。ラインの先だけが重くなっているシンクティップのティップの部分を一気に川底近くまで沈めてフライを流し込みます。
ティップ部分の重さは、川の水量によって300グレインから500グレインぐらい。私は Teeny Fly Lines の T-300 と T-400 を、どちらも先端のシンクティップを 5m の長さに切って使い分けています。
シンクティップの先に付けるリーダーループは、川底の石でこすれても痛みにくい超強力なアラミド繊維のブレイデッドリーダー、根付・吸い込み用のハリス、よつあみの「ケプラート」25号をループにして、フライを作るスレッドと瞬間接着剤で固めたものを付けています。
その先に結ぶリーダーというかティペットというかハリス。これも根ズレに強いフロロカーボンのラインで。カラフトマス狙いのときは12ポンド、シロザケ狙いのときは16ポンド。
長くするとせっかくラインのティップが沈んでもフライがついてこなくて浮かんでしまうので、80〜100センチぐらい。
現場で矢継ぎに構えたぐらいの長さに切ってリーダーループにユニノットで結びます。
ラインとバッキングラインを巻けるぐらいの大きめのリールを使います。
クリックタイプのドラッグはシロザケがかかっていきなり下流に向かって川の流れに乗って走り出したときなどに死にそうな音を立てて逆転して怖いので、ディスクタイプのよく効くドラッグが安心です。
また、そういうときにリールに素手でブレーキをかけようとするのは禁物。本当にすごいパワーで逆転するので、摩擦で手の皮がむけたり、リールのハンドルで指をしこたま打って痛めたり、怪我のもと。リールのドラッグってこういうときに役に立つんだな、と実感できます。
サーモンフライというと2/0とか1/0の馬鹿でかいフックをイメージするかもしれませんが、鼻先に流し込んで口に掛けるにはもっと小さいサイズのフックが最適。
#4〜#8の強いフックを選びます。TiemcoのTMC700 #6、TMC7999 #6、TMC760 #8、TMC9300 #8、マルトの1930BL #6、w12 #6、Mustadの94840 #6、がまかつのS12-VH #6 などなど、鍛造鉄の鋭いやつ。
川底を繰り返しゴロゴロ流すのでよく根掛かりします。フライは消耗品と覚悟して、1日10本単位で無くなっても慌てないように、大量に作って持って行きます。根掛かりしないようだとフライが沈んでない証拠。釣れません。
色は赤や紫を中心に。紫はシロザケに効く印象。
パターンは忠類川オリジナルのカムイチェップやクリオネをオススメしています。
今年、地元のあるベテランの方に見せて頂いたのはこれ。
100均のモップとガン玉!
簡単にいくつでも巻けて、素早く沈んで、よく釣れる!これは21世紀のチープ革命。
3〜4日の釣行で、このぐらいの荷物。
改造 Travel Pro と、かわるビジネスリュックの組み合わせは最強。
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サーモン用の長いロッドといっしょに、3番ぐらいのライトロッドも持っていくと、鮭釣りの合間に別の釣りが楽しめます。
忠類川の上流部の山の中はヤマメとオショロコマが豊富にいます。パラダイスです。
ヤマメ。
オショロコマ
ドライフライが水の上に浮かんでいる間は限りなく釣れるイメージです。
どんなフライでもいいですが、私はいつもオレンジ色のエルクヘアカディスを使っています。
忠類川から知床半島を北に移動して、古多糠川、薫別川、崎無異川の上流も同様に釣れます。薫別川は川底から温泉が湧き出しているところもあって、川底に石を積んで泉源を囲うと即席天然露天風呂が作れます。
ただし、どこも野生のヒグマの生息域の真ん中です。単独行動はものすごく心細いですし、できれば現地の様子をよく知っている人に同行してもらうことをお勧めします。
北海道のほぼ全域の沿岸に定置網がしかけられて、産卵のために生まれた川に戻る途中のサケ・マスを捕獲します。
定置網にかからなかったサケ・マスを狙った海岸からの釣りは昔から北海道各地で行われていますが、漁業者とのトラブルも多く歓迎されていません。
一方、川を遡上するサケ・マスをルアーやフライで釣るスポーツフィッシングは行われてきませんでした。
まず、北海道の内水面(川と湖)と河口ではサケ・マスの「採捕」が全面的に法律で禁止されています。
また、北海道の主要な川の河口には捕獲・採卵場が作られていて、遡上してくるサケ・マスをそっくり捕獲して、採った卵と白子を人工授精させ、孵化場である程度育った稚魚を効率よく川に放流する「さけ・ます増殖事業」が国家事業的に行われてきました。
そんななか、日本国内で水揚げされるサケ・マスの10%ちかくがここから揚がるという道東の標津町で、採捕禁止の法律の枠組みのもと、河川での遊漁としてのサケ・マス釣りを許可しようという働きかけが起こります。そして1995年に、捕獲・採卵場が廃止された忠類川(ちゅうるいがわ)という川で、サケ・マスの有効利用調査という名目で、一定の期間、決められたルールの下で、鮭釣りができるようになりました。これが日本ではじめての試みです。
この忠類川の取り組みが先例になって、今では北海道と東北を中心にいくつかの河川でサケ・マスの釣りができるようになっています。
先人達の粘り強い交渉と努力に感謝!
くわしくは『忠類川の変遷』を。